『夜の釣り』

完成したものの、あまりに中途半端な長さのため、扱いに困っている掌編。 じつを言えば、もうこの小説に飽きてしまった。そんなに悪くはないとおもうけど。 「いつかさよなら、僕は夜に帰るわ」 好きな曲の、冒頭を口ずさみながら波止場を歩いていた。目当て…

『ぜんぶマーフィーのせい』

わたしたちは、みんな転校生だった、だから、うまれた場所も、ある程度おおきくなるまでそだった場所も、ぜんぶちがったけど、わたしたちの顔は、どれも、とてもよく似ていて、似すぎていて、だから似ている、という事実すら、わすれてしまうほどだった、だ…

雨と埃(仮題)

透明 陽のささない廊下の空気はどことなく硬く、冷たく、そして青みがかっていた。晴れた空の青さを、雲が太陽をかくした時の翳りをそのままうつしていた。地上三階、トイレの脇の手洗い場、しまりのわるい蛇口からもれる水滴がちいさくしきつめられたタイル…

千年前に書かれた小説を読みながら時の帝など生まれながらに絶大な権力を持ったものは蚊に一度も刺されることなく一生を終えたのかとふと夢想した。肉体をたえず駆けずりまわる血液が一度も肉体の外にもれずに生を閉じたものがいるとすれば、その死因はあき…

『ゆらるゆらり』

味のないガムを噛んでいるみたいだと口にした。ほんとうに味のなくなったような気がした。あれからずっと噛みつづけている、味のないガムを。 生活は平々凡々、やろうとおもえば何でもやれると勘ちがいした時期はとうにとおりすぎて、何にもできないとすべて…