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H社長へ

 

 ぶしつけな手紙となってしまい、申し訳ございません。面とむかって話すとうまくことばにできないとおもい、勝手ながら拙文をしたためてきました。このまま捨てていただいてもかまいませんが、気が向いたら最後までお付き合いください笑

 前置きはさておきまして、社長にはまず何よりも申し訳ないことをしてしまったという気持ちがつよいです。料理経験のほとんどないじぶんにあれだけ気を、あるいは目をかけてくださったにもかかわらず、その期待を裏切ってしまったことは今考えても胸が痛いです。正直、店にいる時は目をまともに合わせて会話することさえはばかられました(今にしておもうと、それはぼくの弱さだったのでしょう)。しかし社長はぼくが退職の旨を申し出たあとにも、以前と態度を変えずに接してくださいました。それが心苦しくもあり、また救いでもありました。社長の明るさや元気に励まされるひとはたくさんいるとおもうのですが、ぼくもその中のひとりだったということです。本当にありがとうございます。そして、改めてとなりますが、本当に申し訳ありませんでした。

 約四年前(光陰矢の如し!)に東村山から横浜へと引っぱっていただいて、そこからいろんなことがありました。ご迷惑もたくさんかけました。後半こそ多少落ち着きはしましたが、店もぼくじしんの状況も目まぐるしくうごく日々がたしかにありました。その中でぼくはじぶんの至らない部分と何度も直面し、へとへとになりながらもそれを乗り越えたり、迂回したり、逃げだしたり、持久的に付き合ったりしてきました。仕事や店の中での人間関係をとおして、じぶんの性格におおきな変化があらわれたことを今しみじみと実感しています。それはすなわち他者―社会と対峙してじぶん自身を知る作業でした。仕事をこなし、おぼえながら、それでも離れられない小説と向き合うことでじぶんがこの人生で何を求めているのか、どこに価値を認めるのかがしだいにわかってきたのです。結果から言うと、ぼくは社会不適合者でした。それは四年前に危惧していた一般能力的な問題ではなく、思相的な欠陥からでした。ひらたく言ってしまえば、ぼくは一般的に価値があるとされるものをどうしても認められないのです。気味が悪いと感じてしまうのです。そして、資本主義的な意味合いから外れた場所でしか自由を見いだせず、その自由を尊ぶべきだと考えてしまうのです。冷静に自問自答をかさね、自己分析をこころみ、余計な意固地をはがしても根がこのように腐っていました。こうした事実と直面した時は非常に辛かったです。落伍者の烙印をみずからの手で押さなければなりませんでした。

 こう書いてしまうと、これから小説一本でやっていくかのようなニュアンスを帯びますが、そんなことは考えておらず、二三カ月後にはふたたび和食の料理人として働くつもりです。その前に小説や勉強をこなし、ひとと会い、なおざりにしてきた事象にけりをつけてきます。ぼくはじぶんの意思で、好奇心と向上心に重点を置きつつ、料理と小説の汽水域に立つことを決めました。その位置を拡大することがじぶんの引き受けるべき責任なのだと最近はつよく感じています。この四年間の仕事の中でまがいなりにも身に付けた技術や経験があるからこそ考えられる進路であることは重々承知しており、その点に関してはK井さんへの感謝もふかいです。先のプランを持たず、おのれの欲求にしたがってのみ生きる行き当たりばったりなぼくの人生において、天Kでの四年間は「いい経験になった」とか「勉強になった」とか、そういった次元の話ではなく、ぼくという主体と切っても切り離せない重要な時間となりました。おかげさまで多くの曖昧模糊なものをあきらめ、じぶんを見定め、覚悟を決めることができました。本当に、こころの底から、お世話になりました。社長や専務、天Kの皆さんとぼくの人生が今後交わるか、それは今のところわかりません。もしかしたら何かの縁があって、また毎日のように顔を合わせる日が来るかもしれません笑 仮にそんな日が来ないとしても、蜜月の日々の記憶はぼくから生涯消えないある種の傷として、甘酸っぱく発酵した思い出の数々をふと胸によぎらせるでしょう。そんな瞬間が、恍惚が社長にも訪れることをほんのりと期待しています笑

 まだまだお元気だとはおもいますが、どうか心身を大切に、すこやかなまま長生きされてください。天Kのますますの発展と社長の健康を祈り、結びのことばとさせていただきます。

 

 PS 神奈川新聞のエッセイ期待しています笑 かたちとなった暁には天Kまで買いに行きますので笑

 

 労働。しんどい。のこり一日。帰宅途中に社長、親方、専務、後輩へとそれぞれ手紙を書くことをおもいつき、入浴後さっそく実行したものの、社長の分=文を打ち込んだところで時間がかなり経過してしまった。そもそも文を練るのがおそいし、その上タイピングが絶望的におそい。明日はラストだというのに早出なのでそろそろ寝ないといけない。もう社長だけでいいか。清書めんどくせぇ。明日の送別会は朝方までやってくれるそうなので、眠くならないかが心配だ。